粵拼

日本語話者のための広東語発音ガイド

広東語の発音を身につけるための必要最小限の知識。これだけ覚えて広東語の発音をマスターしましょう!


はじめに

日本語のような漢字で書く言語を学ぶには、発音表記は欠かせないものです。日本語では仮名文字がそれにあたりますが、中国語は特にローマ字表記が向いています。

広東語にはいくつかのローマ字表記法がありますが、特に広く使われているのが粤拼ユーッペンです。

この記事は日本語話者を対象とし、日本語のローマ表記との違いや見慣れないかもしれない表記だけ取り上げて、「これさえ学べば広東語が話せる=読み上げられる!」分の知識を粤拼を通じてわかりやすく伝えます。

鉄則:音の組み合わせ

広東語は多くの漢諸語のように、音声では漢字一文字ごとに1拍を取るので、一文字で一つのまとまりに聞こえます。これを「音節」といい、広東語の場合、必ず

  • 「(頭子音任意 +) 母音必須 (+末尾子音任意)」
  • 「(頭子音任意 h +) 末尾子音必須 m または ng   

のいずれかの組み合わせに「声調」(音の高さ)を全体にかけることで音節を成します。

便
音節
声母韻母
韻腹韻尾
(頭子音)(母音)(末尾子音)
bin
6
声調

次に、各要素を一つずつ見ていきましょう。

声母(頭子音)

頭子音とは文字通り音節の頭にくる音のこと(任意)。日本語で「~行」は同じ頭子音を共有する音節を指しています。例えば「カ行」というのは「k」から始まる音節のこと。

「z」「c」

それぞれ「ヅァ行」と「ツァ行」に当たります。

  • zi1ヅィーci4ツィー
  • ceot1ツョㇳzik6ヅェㇰ

「s」

サ行」ですが、「si」は「スィー」と発音すること。

  • si4スィーsi6スィー

「ng」

鼻にかけて「ガ行」を発音します。「かんがえる」「だがしかし」などの「が」の子音。いわゆる鼻濁音の「カ゚行」。

  • ngaak3カ゚ーㇰngoi6コ゚ーイ

「gw」「kw」

口を丸めて「グ」「ク」を発音します。小さい「ヮ行」と素早く滑らかに繋げて発音するとも言えます。

  • kwaa1クヮーgwok3グォーㇰ

「j」

ヤ行」です!日本語ローマ字や英語の「y」に当たります。

  • jyun4ユーンjan1ヤン
  • jung4ヨンji6イー

韻腹(母音)

音節内で自由に長さを伸ばしたり縮めたりできる部分が母音です。日本語で「~段」は同じ母音を共有する音節を指しています。例えば「ア段」とは「a」を含む音節のこと。

広東語は日本語と同じく母音の長さは区別しています。母音の後に何もついていないときも含め、大抵の場合は長母音で日本語の「アー」のように母音を長引いて発音するように覚えておいてください。

短母音は速く飛ばすように読むだけでなく、口を少しだけ小さくして発音するように意識してみましょう。

「aa」「a」

「i」「u」「e」「o」は長音ですが、「a」は短い音を表します。その代わりに長い方は「aa」で表しています。

  • gam1ガㇺmaan1マーン
  • waa6ワーtai4タイ

「oe」「eo」

「oe」(長)・「eo」(短)は丸みを帯びた「エ」。「エ」と「オ」の中間くらいの曖昧な発音。

  • hoeng1ホョーンseoi2ソュ
  • soek3ソョーㇰceoi4ツォュ
  • zeon3ヅョㇴceot1ツョㇳ

「yu」

丸みを帯びた「イー」。「イー」と声出して舌の位置を動かずに「ユー」に変えてみてください。

  • jyut6ユーㇳjyu5ユー
  • jyun4ユーㇴcyun4ツューㇴ

特例

  • 「ei」の「e」は短い音。「ing」「ik」も同じ母音を持ち、それぞれ「エイ」「エン」「エㇰ」のように発音します。
  • 「ou」の「o」は短い音。「ung」「uk」も同じ母音を持ち、それぞれ「オウ」「オン」「オㇰ」のように発音します。
  • sing4センgung1ゴン
  • gei3ゲイjik1イェㇰ
  • gou1ゴウcuk1ツォㇰ

韻尾(末尾子音)

末尾子音とは音節の最後に付く音のこと(任意)。俗説とは裏腹に日本語にもありますが、日本語とは違い、急に途切れたかのように、途中まで音を出したら切り詰めます。

「-i」「-u」

連続した母音の最後となる「-i」「-u」は前節で述べた韻腹に該当せず、短く「イ」「ウ」と発音します。

  • liu5リーウgaai2ガーイ
  • wui4ウーイsau1サウ

「-m」「-n」「-ng」

日本語話者にとってはいずれも「ン」に聞こえる鼻に抜ける音ですが、広東語では違う音として扱われます。

  • 「-m」:さんま(秋刀魚)の「ん」。口を完全に閉じること。また、声を出し切るまで口の形を変えないこと。
  • 「-n」:さんた(サンタ)の「ん」。舌を上の歯肉に当てること。また、声を出し切るまで舌の位置を変えないこと。
  • 「-ng」:さんか(参加)の「ん」。舌を喉の奥に当てず軽く持ち上げること。また、声を出し切るまで舌の位置を変えないこと。
  • gang1san1
  • hang6wan6
  • zan1sam1
  • fan1zam1

「-p」「-t」「-k」

日本語話者にとってはいずれも小さい「っ」に聞こえる詰まった音ですが、広東語では違う音として扱われます。

  • 「-p」:かっぱ(河童)の「っ」。口を完全に閉じて息をさえぎること。
  • 「-t」:かった(買った)の「っ」。舌を上の歯肉に当てて息をさえぎること。
  • 「-k」:かっか(閣下)の「っ」。舌を喉の奥に当てず軽く持ち上げて息をさえぎること。
  • baat3baak3
  • sap6jat6
  • jat1kap1
  • dak1sat1

成節子音

末尾子音の「m」「ng」は単体で音節を成すこともできます。発音の仕方は前節に同じです。

  • 「m」:口を完全に閉じたまま「ンー」を単独で発音します。
  • 「ng」:舌を喉の奥に当てず軽く持ち上げたまま「ンー」を単独で発音します。
  • m4
  • ng4

珍しいですが、頭子音「h」を前に付くこともあります。

声調

広東語には6種類の音の高さのパターンがあります。それを「声調」といい、「声母」「韻腹」「韻尾」とは同じ位置付けで、それらと同様に、間違うと(ほとんどの場合)まったく違う漢字になり、意味が変わってしまいます。

次の画像に、声調それぞれの高さを示します。

広東語の声調の高さ

4つの(真っ直ぐで穏やかな)平板調と2つの(低めから高くなる)上昇調があることがわかります。下降調はありません。

  • 第1声は、すごく嬉しいときに発する「やったー!」のように、意識的に高い音を出します。
  • 第2声は、「(です)か?」などの疑問文よりも大げさに、普段出す声の高さから第1声の高さまで上がります。
  • 第3声は、普段出す声の高さ。
  • 第4声は、格段に低い高さ。生きがいを失ったときに発する「はぁ~。」のように、できるだけ声を下がります。
  • 第5声は、低い声から普段出す声の高さまで戻す感じ。
  • 第6声は、普段出す声の高さより少し低い高さ。
  • si1
  • si2
  • si3
  • si4
  • si5
  • si6

次に、上記の6文字が繋がって連続した2文字になるとき、各声調はどのように聞こえるかを確かめることで、相対的にどれだけ高いのかを実感してみましょう。

123456
11→1 1→2 1→3 1→4 1→5 1→6
22→1 2→2 2→3 2→4 2→5 2→6
33→1 3→2 3→3 3→4 3→5 3→6
44→1 4→2 4→3 4→4 4→5 4→6
55→1 5→2 5→3 5→4 5→5 5→6
66→1 6→2 6→3 6→4 6→5 6→6

また、声調の感覚を身につけるのに歌はとても有効です。「広東語の歌で声調を練習する」ページで香港ポップスを聞きながら歌って練習してみましょう。

おわりに

以上、粤拼自体と日本語話者が注意すべき粤拼の綴りの紹介を通じて、広東語の発音を解説してみました。これで粤拼を振った文章を読み上げるのも楽勝のはず!次の節で腕試ししてみましょう!

漢字の読みがわからないときや単語の意味を調べたいときは次の辞書を活用してみましょう。

  • 粵音資料集叢:漢字を入力して読みを検索できます。ただし新字体のうち日本独自のものには一部非対応なので、事前に開放中文轉換で「原文」を「日文新字體」に設定し、入力を新字体から旧字体に変換してください。
  • 粵典:単語または粤拼を入力し、粤拼や意味や例文を調べることができます。

また、聞こえた広東語の単語を知りたいときは TypeDuck という入力方式(キーボード)をインストールし、粤拼で広東語を入力してみて、さらに粤拼に慣れ親しんでみましょう。

その他のリソースは「粤拼キーボードとツール」をご覧ください。

『北風と太陽』で腕試し

『北風と太陽』という有名(?)なイソップ寓話がありますね。その広東語訳がこちらです。各文字の上の再生ボタンをクリックして、聞いた発音を真似て繰り返して練習してみましょう。